国家資格1級ガラスフィルム施工技能士が解説【災害編②-「絶対に割れないガラス」がない理由】
「絶対に割れない」ガラスがない理由
台風が近づくと、窓ガラスの対策について多くのお問い合わせをいただきます。
「窓ガラスが割れないようにする方法はありますか?」
「我が家は強化ガラスでワイヤーが入っているので大丈夫ですよね?」
など、強風の被害を心配されている内容がほとんどです。
結論からいうと、窓ガラスはどんなに強化しても「絶対にわれない」と言えません。強化ガラスや防犯ガラス、合わせガラス、網入りガラス、ペアガラス・・・
様々な種類の窓ガラス、そのどれもが割れないことを目的としたものではないのです。
ここではガラスが割れないと言えない理由と、台風の対策としてよく見かける養生テープの是非についてご紹介したいと思います。
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どんなタイプのガラスでも
まずはガラスの種類別の割れ方をご紹介します。
ワイヤー入りガラス
よく「え!ワイヤー入りの網入りガラスも割れるの?」と言われます。ワイヤーが入っているため、見た目で強そうだと思いますよね・・・
でも、ガラスの強度からすると、ワイヤー入りガラスはよくて通常のガラスと同じくらいか、弱いものもあります。
ワイヤータイプは火災時に、炎症によるガラスの飛散防止や脱落を一定時間防ぐためのもので、風圧や物当たりのための強化ではないのです。
強化ガラス
強化ガラスも割れないガラス、だと思っている方が多いです。通常のフロートガラスの3倍~5倍の強度があるため、割れにくい、という表現はできても割れないものではありません。
強化ガラスは性質上、割れる時は鋭利な状態ではなく、粒状になって割れます。そしてサッシに残ることなく、ほぼすべてが脱落します。
ペアガラス
ペアガラスは建物の種類を問わず広く普及しています。1枚のサッシに内外2枚のガラスと、ガラスの中間に空気層のある製品ですが、フロートガラスや網入りガラス、強化ガラスなどの組み合わせで作られています。
そのため割れやすさに変わりはなく、仮に台風時に物当たりで割れてしまった場合、室内に飛散する危険なガラス片は「ペア」であるから単純に2倍ということになります。
実は防犯合わせガラスは・・・
もうひとつ別の種類のガラスがあります。防犯ガラスと合わせガラスです。このふたつは同じものと思っていただいていいのですが、ポイントはその作り方にあります。
1枚のガラスに見えますが、実は2枚のガラスにフィルムを挟み込んで作りますので、もとより飛散防止性能があります。そして強化ガラス以上にとても強いガラスです。
災害対策のガラスとしてはとても高い性能がありますし、ガラスメーカー各社も普及に力を入れています。
ここでポイントになるのが、フィルムを使うことでガラスの防災化をしている、ということです。この記事の結論部分になりますので、のちほど改めて記載しますね。
いずれにせよ、ガラスメーカー各社のHPを見てみると、「絶対に割れないガラスはない」ことについて、各社とも同じ趣旨の説明をのせています。
HPの著作権の問題があるため引用はできませんが、ぜひ確認してみてください。
各社のホームページはとてもわかりやすく、さらに関連するガラスの知識も教えてくれるので、日常のお手入れや防災にも役立つと思います。私はガラスの知識を手に入れる時、ガラスメーカー各社のHPをよく参考にしています。
ガラスには目に見えない傷がある
ではなぜ、ガラスは割れるのでしょうか?しかも割れる時は一気に全部が粉々になったり、大きくひびが入ったり、被害が大きいです。
これには二つの決定的な理由があります。
一つ目の理由、それは、ガラスには人の眼では見えないほどのミクロの傷が無数に入っているから。
電子顕微鏡でガラスを見ると、いたるところに無数の傷が入っていることがわかります。「グリフィス・クラック」と呼ばれるこの傷は、経年劣化だけで発生するものではなく、工場で製造される過程や流通、施工の段階でも発生すると考えられています。
新築の住宅や商業施設のピカピカで綺麗なガラスでも、人の眼には見えない傷が入っていて、このグリフィス・クラックの影響で、ガラスは理論上の強度よりも実際の強度が落ちるとされています。
しかし、傷があるといってもガラスは一定の強さは有していますし、他の物質では目に見える傷が入っていても壊れにくいものはあります。なぜ傷がきっかけとなり、ガラスは一気に割れたりひびが入るのでしょうか?そこにはもう一つの理由があります。
ガラスは水?分子構造が弱い
例えばナイフやフォーク等の金属製品。手元から落ちると、傷は入りますが壊れません。何度も使用すると洗うときに小さな傷が入りますが、だからといって一気に壊れることはないです。
なぜ金属とガラスで壊れやすさに違いがあるのでしょうか?
それは分子構造の違いによります。
金属の分子構造は規則正しく並んでいて、分子同士ががっちりと繋がっており「壁」のような状態になります。これを「結晶質」といいますが、この結晶質の壁があるおかげで、ある一点に衝撃が加わって部分的に壊れたとしても、次の壁で衝撃を食い止めることができます。分子構造が規則正しく並んだ状態は、構造的に強いとも言えます。
左が結晶質の分子構造。右が非晶質の分子構造
一方のガラスはというと、個体であるにも関わらず、実は液体のような分子構造をしています。「非晶質」といわれる不規則な分子構造で、水のようにゆるゆるの状態です。
川の流れをイメージしてみましょう。川の中に石があります。この石に水があたると流れが裂けて二手に分かれますね。それも、次から次へと当たる水の全てが裂け続けます。また違うところでは渦巻いたり飛沫をあげたり、水は様々に形を変えます。
非晶質である水は分子構造が不規則であるがために構造的に弱い。ガラスも非晶質なので分子の性質は同じ。だからガラスに衝撃が加わると、まるで石に当たった川の流れのように一気に裂けて(割れて)しまうのです。
グリフィス・クラックとよばれるもともとの傷の存在と、非晶質としてのガラスの性質。目では見えない傷と構造的な弱さが、「絶対に割れないガラスはない」と言われる理由です。
そういえばNHKの「チコちゃんに叱られる」で「なんでガラスは割れやすい?」の解説で「菓子袋のギザギザを引き裂くと簡単に破ける。あれと同じ」と表現していました。グリフィス・クラックを菓子袋のギザギザに例えていて、とても分かり易いな~と感心しました。
日常生活では気にしなくていいけど
さて、このように割れやすい特徴がある窓ガラスですが、だからといって常日頃から神経質に恐る恐る触らないといけないかというと、当然そんなことはありません。
普段窓ガラスを触るときに、まるで綱引きのようにあらん限りの力を振り絞って開け閉めしたり、体当たりして全身全霊をかけて窓掃除をする人なんてまずいませんよね。
特に意識することなく丁寧に開け閉めすると思いますし、その程度の衝撃は窓ガラスにとって衝撃ではありません。
「割れない窓ガラスはない」といっても、建材として台風時に一定の風圧にもたえられる強さも備えています。
つまり、今までと変わらず丁寧に扱うだけでいいのです。
心配なのはガラスの強度を超えた衝撃が加わる、つまり地震や台風などの、災害時の圧倒的なパワーで割れてしまうこと。
そして割れたガラス片が2次的、3次的な被害につながりやすいということです。
ここに、窓ガラスの防災化、災害対策が必要な理由がでてきます。
次の記事では、災害時の圧倒的なパワーのもとで、人が危険の回避行動をとれるかどうかを検証します。
次記事→国家資格ガラスフィルム施工技能士が解説【災害編③-災害時の圧倒的なパワー<地震編>】
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