国家資格1級ガラスフィルム施工技能士が解説【災害編③-災害時の圧倒的なパワー<地震>】
地震発生。その瞬間何ができる?
前回はガラスが割れやすい性質について、目では見えない傷と分子構造の弱さが「絶対に割れないガラスはない」と言われる理由だと記しました。
そして、日常的には気にすることはなくても、災害時にガラスの強度を超えた衝撃が加わるとわれてしまい、ガラス片による2次的、3次的な被害につながりやすいともそえました。
さて、災害時にガラスは割れるものとして、台風や地震で窓ガラスが割れた時にとっさに危険を回避できるでしょうか。
ゼロ対策の窓ガラスを災害が襲った時、飛び散るガラス片から逃げるにはどうしたらいいのか、まずは地震から検証してみます。
危険回避の理想と現実
まず、総務省消防庁のホームページで公開されている、「防災マニュアル-震災対策啓発資料-」を基に作成した表をご覧いただきます。
資料の冒頭では
-地震が発生したとき、被害を最小限におさえるには、一人ひとりがあわてずに適切な行動をすることが極めて重要です。
そのためには、みなさんが地震について関心を持ち、 いざというときに落ちついて行動できるよう、日頃から地震の際の正しい心構えを身につけておくことが大切です。-
と記されている通り、この資料は地震発生の、まさしく揺れている瞬間にどんな行動をとるとよいのか指針となるものです。
自宅での基本的事項 | ●突然大きな揺れに襲われたときは、まずは自分の身を安全に守れるように心がけましょう。 ●戸を開けて、出入り口の確保をしましょう。 ●棚や棚に乗せてあるもの、テレビなどが落ちてきたりするので、離れて揺れが収まるのを待ちましょう。 ●あわてて戸外に飛び出さないようにしましょう。 |
寝ている時 | ●暗闇では、割れた窓ガラスや照明器具の破片でけがをしやすいので注意をしましょう。 ●枕元には、厚手の靴下やスリッパ、懐中電灯、携帯ラジオなどを置いておき、避難が出来る準備をしておきましょう。 ●寝室には、倒れそうなもの等をおかないようにし、頭の上にものが落ちてこない所に寝ましょう。 |
お風呂・トイレ | ●風呂場ではタイルや鏡、トイレでは水洗用のタンクなどが落ちてくることがありますので注意しましょう。 ●入浴中は鏡やガラスの破損によるけがに注意しましょう。 ●浴槽の中では、風呂のふたなどをかぶり、頭部を守りましょう。 ●揺れが収まるのを待って避難しましょう。 |
台所 | ●無理して火を消しに行くと調理器具が落ちてきてやけどなどをしたりするので、揺れが収まるまで待ちましょう。 ●食器棚や冷蔵庫が倒れてくるだけでなく、中身が飛び出してくることもあるので注意しましょう。 ●コンロの近くの場合、調理器具が滑り落ちてくる場合があるので、コンロの近くから離れ、揺れが収まったら落ち着いて火を消しましょう。 ●揺れを感じて自動的にガスの供給を停止するガス漏れ遮断器(ガスマイコンメーター)がほとんどのご家庭に設置されています。特性や使い方を十分に理解しておきましょう。 |
主に自宅にいる場合をまとめています。
オフィスや学校、運転中などの状況も考えられますが、紙幅の都合で割愛させていただきます。
要約すると、被害に遭わないように「危険に注意を払いながら揺れが収まるのを待つ」という内容だと理解します。
全国各地の災害に派遣され、救助を担ってこられた消防庁で培われたノウハウが詰まっているので、必読に値する資料です。
次に、地震が発生した瞬間にとっさに人がどんな行動をとれるのか、地震シミュレーターの動画をご覧いただきます。
【動画:ミルクボーイも体験!!地震体験車による震度7】
動画はあくまでシミュレーターなので、あらかじめ固定された物に掴まっていますが、それでも震度が大きくなるにつれて体の揺れも激しくなり、固定物を掴むのでやっとの状況です。
現実の室内を見回すと、固定されていないもののほうが多いと思います。
身体の自由がきかないほどの揺れの時、掴まる固定物がないとすれば地震に弄ばれるだけ、ということになりそうです。
この動画からは、震度によっては揺れている最中に行動がとれる場合と取れない場合がある、ということが分かります。
この、震度によってとれる行動が変わることを、気象庁が「震度階級関連解説表」という資料でまとめています。
震度 階級 | 人の体感・行動 | 屋内の状況 | 屋外の状況 |
---|---|---|---|
0 | 人は揺れを感じないが、地震計には記録される。 | - | - |
1 | 屋内で静かにしている人の中には、揺れをわずかに感じる人がいる。 | - | - |
2 | 屋内で静かにしている人の大半が、揺れを感じる。眠っている人の中には、目を覚ます人もいる。 | 電灯などのつり下げ物が、わずかに揺れる。 | - |
3 | 屋内にいる人のほとんどが、揺れを感じる。歩いている人の中には、揺れを感じる人もいる。眠っている人の大半が、目を覚ます。 | 棚にある食器類が音を立てることがある。 | 電線が少し揺れる。 |
4 | ほとんどの人が驚く。歩いている人のほとんどが、揺れを感じる。眠っている人のほとんどが、目を覚ます。 | 電灯などのつり下げ物は大きく揺れ、棚にある食器類は音を立てる。 座りの悪い置物が、倒れることがある。 | 電線が大きく揺れる。 自動車を運転していて、揺れに気付く人がいる。 |
5弱 | 大半の人が、恐怖を覚え、物につかまりたいと感じる。 | 電灯などのつり下げ物は激しく揺れ、棚にある食器類、書棚の本が落ちることがある。 座りの悪い置物の大半が倒れる。 固定していない家具が移動することがあり、不安定なものは倒れることがある。 | まれに窓ガラスが割れて落ちることがある。 電柱が揺れるのがわかる。 道路に被害が生じることがある。 |
5強 | 大半の人が、物につかまらないと歩くことが難しいなど、行動に支障を感じる。 | 棚にある食器類や書棚の本で、落ちるものが多くなる。 テレビが台から落ちることがある。 固定していない家具が倒れることがある。 | 窓ガラスが割れて落ちることがある。 補強されていないブロック塀が崩れることがある。 据付けが不十分な自動販売機が倒れることがある。 自動車の運転が困難となり、停止する車もある。 |
6弱 | 立っていることが困難になる。 | 固定していない家具の大半が移動し、倒れるものもある。 ドアが開かなくなることがある。 | 壁のタイルや窓ガラスが破損、落下することがある。 |
6強 | 立っていることができず、はわないと動くことができない。 揺れにほんろうされ、動くこともできず、飛ばされることもある。 | 固定していない家具のほとんどが移動し、倒れるものが多くなる。 | 壁のタイルや窓ガラスが破損、落下する建物が多くなる。 補強されていないブロック塀のほとんどが崩れる。 |
7 | 立っていることができず、はわないと動くことができない。 揺れにほんろうされ、動くこともできず、飛ばされることもある。 | 固定していない家具のほとんどが移動したり倒れたりし、飛ぶこともある。 | 壁のタイルや窓ガラスが破損、落下する建物がさらに多くなる。 補強されているブロック塀も破損するものがある。 |
震度5強ではものに掴まらないと行動が困難になり、窓ガラスが割れ始めます。
震度6弱だと立った状態での行動が難しくなり、外壁材やガラスが破損、落下します。
震度6強以上だと、はわないと動くことができず揺れに翻弄されます。そして多くの家具が移動したり飛ばされます。
以上の「防災マニュアル-震災対策啓発資料-」「地震最中の行動」「震度階級関連解説表」から考えると、
ガラスが割れる規模の地震では、危険を回避する行動がとりにくい。
そして地震が強くなるほどに動けなくなる、ということが分かります。
回避できないなら事前に対策
私はこの結果が、体験として理解できます。
私は2005年の福岡県西方沖地震の際に、甚大な被害が出た新天町商店街で働いていました。
震度6弱(マグニチュード7.0)の地震が福岡市沖の玄界灘で発生し、築45年の商店街の古い建物が突き上げるような衝撃で激しく揺れて、床に倒れこみ転がされてしまいました。
アーケードの天井は崩落して通路を埋め尽くし、多数のガラスが割れて頭から全身に浴びました。
とっさに避難することを考えましたが、あまりの揺れの大きさに、動けないどころか、体の自由を完全に奪われてしまったのです。
壁や机に当たったり、割れたガラスを頭からかぶったり、とっさに行動しようにも、強烈な揺れに耐えられず揺れに弄ばれるようでした。
他の震災の被災者同様に、地震のパワーに圧倒されて動けなくなってしまったので、被害を受けるのみの状況でした。
消防庁の指針はよく分かります。
その通りにとっさに行動できたら被害を抑えられると思います。
しかし一定の強さを超える地震は、一瞬で強烈に揺れるのでなすすべはないと感じます。
そして人が動けなくなる強さの地震は、窓ガラスが割れる目安と重なります。
窓ガラスが割れる時に人が動けないなら、被害を最小限に抑えるためにできることは、やはり事前の対策ということになります。
ガラス飛散防止フィルムや防災フィルムを貼ることが、地震時のひとつの対策と言えます。
次記事→国家資格ガラスフィルム施工技能士が解説【災害編④-災害時の圧倒的なパワー<台風>】
◆◇◆連載シリーズ:国家資格ガラスフィルム施工技能士が解説◆◇◆
記事一覧
【災害編⑥-災害対策はシャッター・雨戸・フィルム】