ガラスは固体ではなく液体?ガラスが液体でもあると言える理由
ガラスが固体か液体かの判別について
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「ガラスは固体ですか?それとも液体ですか?」と質問されたら、あなたはどう答えますか?「え?固体じゃないの?」と、答える人がほとんどだと思います。しかし、実はガラスは完全には固体とは言い切れないのです。今回は、ガラスが固体か液体かの判別について、なぜ固体と言い切ることはできないのかを解説します。
ガラスは液体か固体か?
ガラスは液体か固体か。この問題は、実は昔から科学者たちの間で論議されており、1970年辺りまでは、ガラスは液体であると主張する学者と、固体であると主張する学者の両方がいました。ところが、最近の研究により、このどちらの主張も間違ってはいないものの、完全に正解であるとも言えないことが判明したのです。
2020年10月に東京大学の研究者が「中間」であることを発表
2020年10月、東京大学大学院総合文化研究科の水野英如助教と池田昌司准教授、中国上海交通大学のトン・フア准教授とフランス・グルノーブル大学のモッサ・ステファノ教授が、ガラス中の分子の運動を観察・解析した結果、通常の固体ではあり得ないとされる特異な分子運動を発見しました。この発表により、「ガラスは固体か液体か」という長年の問題の答えが明らかになったのです。
ガラスの分子運動の謎を解明
水野英如先生らの研究で明らかとなったのは、ガラスの分子運動の詳細です。力学・連続体力学・統計力学をベースに、最新のコンピュータのシュミレーションによって、今まで発見されていなかったガラスの特殊な分子運動が発見されました。
通常の分子運動
ガラスの特殊な分子運動について解説する前に、まずは通常の固体の分子運動はどのようになっているのか説明します。通常、固体の中の分子は、規則的かつ周期的に配置されており、それらの配置の周りを振動しています。
研究で明らかになったガラスの分子運動
通常の固体の分子は、規則的かつ周期的に配置されているのに対し、ガラスの分子はランダムに配置されています。そして、ガラスがもし固体であるならば、分子はそれらのランダムな配置の周囲を振動しているはずです。しかし、ガラスの分子は振動に加えて「再配置運動」をしていることが、研究によって明らかとなったのです。
ガラスは分子の再配置が常に起こっている
つまり、ガラスは配置の周りをただ振動しているだけではなく、配置を変えながら振動しているということです。この流動的な動きが発見されたことで、ガラスは固体だけではなく、液体の特徴を持っていることが分かりました。このことから、ガラスは固体でもあり、液体でもあること、つまり固体と液体の中間的な状態であることが明らかとなったのです。
これからの研究ではガラスの限界安定性の解明が期待される
ガラスが固体と液体の中間的存在であることは、言い換えれば「ギリギリ安定性を保っている固体」ということです。そして、この限界安定性は、液体がガラスに固化する由来を解き明かすカギとして、ガラスのさらなる謎の解明が期待されています。
ガラスは固体と液体の中間的な状態である
ガラスは一見固体にしか見えませんが、実は昔から分子の振動運動だけでは説明ができない性質があり、「液体ではないか」という指摘があったのです。しかし、分かっていたのは、振動以外の運動があるということだけで、肝心の振動以外の運動とは何かが分かっていませんでした。ところが、2020年に東大の研究チームによって、ガラスは分子の配置を変えながら運動していることが明らかになり、ガラスは固体と液体、両方の特性を持つ物質であることが分かったのです。大昔から私たちの身近にあるガラスですが、まだまだ多くの謎に包まれています。今回の研究結果がガラスの新たな謎を解き明かすカギとなることは間違いありません。さらなる謎の解明に期待しましょう。
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