国家資格1級ガラスフィルム施工技能士が解説【災害編④-災害時の圧倒的なパワー<台風>】
台風襲来。その瞬間何ができる?
前回は【災害編③-災害時の圧倒的なパワー<地震>】の記事で
窓ガラスが割れるほどの地震では、人は身動きが取れなくなる。
人が動けないなら被害を最小限に抑えるために事前の対策が必要。
と記しました。
さて、台風ではどうでしょうか?
風圧や物当たりでガラスが割れたとして、その時室内にいて、割れた瞬間に飛んで来るガラス片から逃げられるでしょうか?
ちょっとシミュレーションしてみましょう。
被害は「穴が開くだけ」で終わらない
シミュレーションの舞台は個人宅のリビング件ダイニングです。
広さは約20畳強、おおざっぱに計算して6m×6mの大きさとします。
生活実感としてはリアリティがある広さだと思います。
窓ガラスは複層のペアガラスで、近年多くの個人宅で見かけるスタンダードタイプ。
そこに2020年台風10号と同等の最大風速40mの台風が襲来します。
なお、今回は風圧では割れず、物当たりで割れることとします。
まず平時を考えてみましょう。
近くに野球場があったとして、そこからボールが飛んできて窓ガラスを割ってしまいました。
当然ガラスには穴が開きます。
サッシには脱落せずに残ったガラスがあり、周辺にガラス片が散ります。
台風時はどうでしょうか。
瓦、プランター、サンダル、ゴミ、木片・・・これらのものが台風に煽られて、猛烈な速さでガラスにぶつかります。
そしてリビングの窓ガラスをなんなく突き破り、飛んできたものの影響で穴が開きます。
その空いた穴から最大風速40mの暴風が入り込み、サッシにはまっているガラス片を残すことなく強風の力で部屋中に散らします。
ガラスはサッシにはまることで一定の強さを発揮しますが、ガラスの性質上、少しでも穴が開いたりひびが入ると劇的に強度が落ちます。
だからサッシに残るガラス片はありません。
台風の風に耐えられることなく、割れたガラスは一つ残らず部屋中に散ります。
そして散らすだけではありません。
問題はその風速です。
時速140kmで6m先からガラス片が飛んで来る
最大風速40mを、時速に換算すると約140㎞となります。これはJR各社の特急電車(約130㎞)よりも早い速度です。
時速140㎞の風に乗ってガラス片が室内に散乱する時、6m×6mのリビングの部屋の、窓から一番遠い場所にいるとします。
割れた瞬間にガラス片が一番遠い場所に到達する時間を計算すると、約0.15秒となります。
人がいつ来るかわからないひとつの刺激に対して待ち構えている時に、最速で反応のできる時間は普通の人で0.2秒、スタートの合図を待つ陸上選手で0.14秒前後とされています。
つまり、ガラスが割れた瞬間に「あっ」と言う間もなく破片が人体に深刻なダメージを与えます。
もしかしたら、反応だけ見れば、陸上選手は割れた瞬間を確認はできるかもしれません。
しかし、飛んでくるガラス片から逃れことはできないでしょう。なにせ距離がない。
ましてや生活空間のリビングにいる時に、割れた瞬間にとっさの行動を起こし、特急列車よりも早い速度で避難することなど不可能です。
「よーいドン」でスタートダッシュが切れればいいのですが、窓ガラスが割れる音を聞いて取れる反応は、おそらく「割れた方向から目を背ける」または「しゃがみこむ」ぐらいではないでしょうか。
被害が無いことを想定できないですよね。
「風に吹かれてみたい」余裕は無い
たまに「台風の風に吹かれてみたい」なんてことを言う人がいますが、上記のような過酷環境ではそんな余裕はありません。
絶対にやめたほうがいいです。
もちろん、窓ガラスに飛来物があたるとその速度は減衰しますので、単純計算で時速140㎞ではなくなるでしょう。
しかし、例えば50%減衰してガラス片が時速70㎞で飛んできたとしても、自動車の法定速度よりも早い速度で6mの距離を移動する、なんてどう考えても無理です。
そもそも、吹き込む風で行動が制限されるので、まともに動けません。
【参考動画:強風で行動が制限されるとどうなるのか?アメリカ・マウントワシントン天文台】
そして2枚ガラスのペアガラスだと、割れて飛散するガラス量は通常の1枚ガラスと比べて単純に2倍となり、危険性がより増します。
以上をもって、台風時にゼロ対策の窓ガラスが割れた時に、とっさの行動で飛んで来るガラス片から逃げることはできないと断言できます。
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【災害編⑥-災害対策はシャッター・雨戸・フィルム】